<タイトル>
晩酌を愉しむ暮らし
酒器 今宵堂 上原連さん 梨恵さん
テーマは「晩酌」
鴨川ほとりにある酒器の工房・今宵堂(こよいどう)。ご夫婦で制作される徳利やお猪口、肴を盛り付ける小皿は、どれも愛らしいデザインで、ユニークなネーミングの逸品ばかりだ。今回は、上原梨恵さんに酒器づくりへの想いを伺った。
器好きだった上原さんは、陶器販売の会社に就職。内定が出た4回生時にアルバイトとして働きはじめるが、「器を作りたい」という思いが日増しに強くなっていった。そして、京都のろくろ職人を育てる訓練校に通い始めることになる。ここで夫となる連さんとの出会いがあり、後の工房づくりへとつながっていった。
器づくりのテーマは晩酌だ。父親が晩酌する姿をみて育ってきた上原さん夫妻は、この晩酌という時間が、仕事から帰ってきて、ご飯の前にクールダウンするいいひと時だなと感じていた。結婚するときには、「忙しくても、夫婦で毎日晩酌する」という約束をした。いまでもずっと続いている。
お酒好きな人はロマンチック
そんな晩酌好きなご夫婦がつくる作品に魅力を感じ、酒器を買い求めるお客さんも多い。「器好きというよりも酒好きな人がお客さんですね」と梨恵さん。年齢層は大学生から四十代くらいが中心だ。十年前に工房を開いたが、その頃から日々の晩酌を食べる前に撮影し、SNSでアップするということを続けてきた。内容の一部は「今宵堂 きょうの晩酌」として出版もされている。また、もともとデザインの仕事をしていた連さんがつくる素敵なホームページもあり、こうしたネットでの発信が、若いお客さんづくりにもつながっている。今ではお客さんから送られてきた晩酌の写真をアップすることもある。お客さんには、お酒を飲み始めるようになった大学生もいる。「若い人でも買えるように」と、リーズナブルな値段設定もありがたい。
「『お酒を飲めるようになったけど、家にはプーさんのマグカップしかない。それで日本酒を飲むのはどうかなあと思い、ネットで探して来た』という大学生もいました。そして今では、社会人になって立派な酒飲みに(笑)。そんな様子が見られるのも楽しい」
近年は夫婦共働きで食事準備に時間を割けない家庭も多い。
「近所のお店やスーパーで買ってきた惣菜買って済ますこともあると思いますが、それを好みのお皿に盛り付けるだけでも、食事の時間が楽しくなりますよね」
こういう感覚が同世代に支持されるのだろう。お客さんと飲みに行ったり、晩ご飯に招かれたりといったお付き合いもあるそうだ。さらに「お酒好きな人はロマンチックな人が多い」らしい。文学やお芝居での色恋沙汰のシーンなどお酒は大事な要素として絡むこともしばしば。
「池波正太郎さんの時代劇は、酒場のシーンが多いんですが、芝居のあのシーンで使ってた徳利がほしいのでつくってくれないか、という依頼もありました。ビデオを借りてきて見てつくりましたね。自分がいいなと思った器で、お酒を愉しみたいという人もたくさんおられます」
週末は工房にてお待ちしてます
酒器の販売は主に百貨店やギャラリーなどでの展示会やイベント、ホームページからの通販だが、土日祝日は工房を開いて、酒器の展示・販売も行っている。
「陶器屋で働いていた頃、作っている人のところに行って、そこの空気を味わいながら、おちょこ買えたら楽しいやろなと思ってて」
工房の場所をこの地に決めたのは、静かに器づくりができる環境だったから。
「北のエリアは、効率がいいとか利益率がいいとか、そんなことを考えるより、ちょっとこだわりを持ちながら、お客さんと愉しみを分かち合いたいという。お店が多い気がします。これからもここで酒器づくりを続けたいですね」
酒器 今宵堂
京都市北区小山上内河原町52-5
営業時間12:00〜18:00(土・日・祝日のみ)
定休日 月〜金(制作日)
TEL 075-493-7651
URL http://www.koyoido.com